世界経済は日々変化しています。コロナ禍の感染状況のみならず、ロシア、ウクライナ情勢に代表される地政学的なリスク等、世界情勢は不透明感が高まっていますが、人材業界のマーケットは昨年以降順調に回復してきています。2021年は特に下半期以降の事業環境は大きく改善され、中核になる国内人材紹介事業が好調に推移、売上高はコロナ禍前の2019年を上回る状況となりました。この復調を足掛かりに2022年は将来の展望を明確にし、そのための次の大きな飛躍への一歩の年と位置づけました。改善、改革、拡大を社内で共有し、ダイナミックな経営を目指して参ります。(2022年3月)
代表取締役会長兼社長
田崎 ひろみ
成長市場・領域として特に注目しているのはやはり「デジタル関連技術」です。昨今はごく一般的な企業でもデジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいるので、引き続き需要は堅調です。そして、IT業界とITを駆使する業界、DXやAI(人工知能)等は、ほぼ全ての産業の中核を担う領域ですので、今後は更にこの分野の細部で専門性の高い人材の需要が見込まれます。それらのニーズに深く入り込むことで、この領域でNo.1を目指して参ります。
また、当社では長年「ヘルスケア」「ライフサイエンス」に力を入れてきましたが、コロナ禍で世界中の人々が製薬や医療の重要性を改めて認識、ニーズも拡大しました。海外はもちろんのこと、日本国内でも、研究開発部門でのスペシャリスト人材や生産の拡大による増員の需要などで引き続き当社の注力業界とし取り組んでいます。
もう一つ、注目しているのが「コンサルティング」です。20年ほど前にコンサルティングファームがブームとなり、その後様々な問題が表面化して停滞した時期がありましたが、10年前ぐらいから再び注目を集めています。IT・DXからM&Aまで、様々な分野でスペシャリストが求められていて、現在大きなマーケットの一つとして注力しています。
働き方自体も多様化しています。テレワークが普及したことで、フルリモートやロケーションフリーを選択肢として注視する求職者や企業が増えています。パーマネント雇用やフルタイム勤務は必須条件ではなくなりつつあります。またプロフェッショナルなスキルを持つ人は、案件ベースで自由に働けるフリーランス様式も選択に入るようになりました。
特にIT業界やDX関連は人材獲得競争が激しく、採用が難しくなっていますから、企業もプロジェクトベースのオファーを増やしています。当社はすでにこのニーズに応えた業務委託の案件を受けていますが、流れが加速しているなか、一層の積極的な取り組みを進めています。
人材紹介事業のリーダー的役割を担ってきた欧州、特に英国では、スペシャリストやマネジメント人材は専門のエージェントを介した採用が一般的です。30年以上にわたって日本の人材紹介業の歴史を作ってきた当社では、日本でもそれが定着すると見ていました。企業の採用活動は常に景気に左右されます。景況が良ければ雇用を増やし、低迷すると抑えます。ただし、全ての雇用を抑えるわけではありません。多くの企業は経済が厳しいときほど現状打破のためにスペシャリストの雇用を求めますから、当社はそのニーズを捉え、しっかりと応える体制を整えてきました。
当社の特徴的な強みの一つは、初めての海外進出を予定している中小企業に対して、海外マーケットで求められる人材像を熟知しているコンサルタントが、事業を成功させるために適した人材をご提案することです。
2021年12月末時点で当社には147の専門チームがあります。それぞれ担当するセグメント別の専門業種・業界に精通した知識を構築し、「こういう専門家はジェイ エイ シー リクルートメントにしかできない」というレベルを目指して取り組んでいます。現在は地域単位でも同レベルのコンサルティングサービスができるような体制強化を図っています。製造業が盛んな地域もあれば、特定の業界に力を入れている地域もありますから、それぞれの拠点の特色や違いを地域ストラテジーに組み込み、当社ならではの特徴のある高いサービスを提供していきたいと考えています。
また、当社の強みである企業の成長や発展につながるマネジメント層、エグゼクティブ人材、高度な専門性を有するスペシャリストをあらゆる業界・地域のパーマネント雇用でご紹介することを基軸として取り組み、専門業界の拡張や拠点強化で更なるマーケットを切り開いていきたいと考えています。今後はそれに加え新しくプロジェクト単位の業務請負型や副業支援事業も拡大します。言葉にすればごく当たり前のことですが、中途半端に取り組んでも結果は出ませんので、そのために必要な体制の構築と改革を実行に移しながら、スピード感を持って取り組んでいます。
当社の成長のベースは第一にオーガニックグロースです。支店を増やす、コンサルタントの人数を増やす、新しいチームを作る、組織の新設、周辺事業の新規参入等……こういったことは全てオーガニックグロースと考えています。その上で、今後の大きな成長戦略のために、まずは画期的な採用と教育に力を入れていきます。これまでに参入できていない領域、新たに挑戦したい分野については、他社での経験や専門知識を有する人を採用します。特により上位階層に絞って採用し、その人材を中心にチームやディビジョンを増設して事業の拡大を図っていきます。その一方で、拡大にはコンサルタントの増員は必須ですので新卒や経験値が浅い将来成長していく人材も必要ですから、入社1年で習得すべきスキルやノウハウを「JAC Standard」と定めて独自の教育プログラムを開発し、人材育成にも力を入れて参ります。
第二にM&A。当社が手掛けてこなかった業界のエキスパートや新領域、地域については国内外を問わずM&Aに可能性を見出し、中長期計画に取り入れて進めて参ります。
当社は人材紹介のプロフェッショナル集団として、サービスの質と収益で世界No.1を目指しています。そのためには前述のとおり人材の育成が重要で、特に今、注力しているのが女性幹部の育成です。当社はSDGsやダイバーシティが注目される以前から女性職員が全体の40%を占め、女性が活躍している企業ですが、15年以上前よりワーキングマザー委員会(現在はワーキングペアレンツ委員会)を設置し、結婚や出産といったライフイベントと仕事の両立を支援してきました。現在育休復帰率は96%になっています。今後は更にそれらのマザーを含め、多数の女性マネジメント層が活躍できる環境整備を目指して「ウィメンズ・エンパワーメントコミッティ」を設置し、女性幹部を育成する取り組みを強化しています。目標は現在25%の女性管理職比率を2025年には40%としていきます。
ジェイ エイ シー グループは2008年からインドネシアのバリ島およびマレーシアのボルネオ島で植樹する社会貢献活動に携わり、これまでに11万本(2021年12月末現在)を植えました。木を植えることで動物の生きる場が守られ、温室効果ガスの削減効果により、地球温暖化対策としても有効です。特にバリ島で再三起こっている活発な火山活動で荒れ果てた山林と枯渇していた湖の再生に、当社の寄付による多くの植林も貢献し当局からも高い評価をいただいています。活動のきっかけは当時から当社の拠点がある地域に対して何らかの恩返しをしたいという思いがあったことです。また地域に貢献する企業として、地域の社員にもプライドを持って働いてほしいとも考えました。
上記の活動の延長から、2022年3月にJAC環境動物保護財団を設立しました。当社はその活動に協賛し支援する形でSDGsの社会貢献に関わって参ります。
JAC環境動物保護財団の活動拠点は日本国内です。日本における自然や動物の保護を他の先進国並みにすることをミッションとした財団の活動を通じて、当社社員が実際に環境整備を行い、自然保護を行います。よってそれが動物ひいては人間との共存、サステナブルな社会につながることを感じる活動に取り組める企画も考えています。自然の森に再生し、多様な生物が生きられる環境を作る活動は簡単ではありません。しかし、そこに意識を向けることができる企業でありたいのです。
生活を支える道路や建物も、身の回りにある製品やサービスも、飲んだり食べたりするものも全て、人間が自然環境にある恵みから作ったもの。私たちがそのことに意識を向けなければ、地球環境の危機から脱せられません。人が生きるためには経済を動かさなければなりませんが、それと同時に動物や自然環境を守ることが人間を守ることだと認識することは重要です。世界中で何千万年生き延びてきた森林が伐採され、温室効果ガスが増え、氷山が溶けだし、動物や植物の生きる場所が失われ、やがて私たちの生活にも影響が及びます。それを少しでもくい止められるのは人間です。私たち人間は今後更に強い責任感を持って地球を維持していかなければならないと考えています。
当社は業容拡大に向けて取り組んでいる企業や、新規事業・新規市場に挑戦する企業に対してスペシャリストやマネジメント人材を紹介しています。素晴らしい人材との出会いによって、その事業あるいは企業が成長すれば経済の活性化につながるでしょう。その活性化が地球を守っていくような仕組みを作っていくのも私たち人間です。当社は人材紹介というビジネスを通じ、今後も更に、持続可能な地球や社会の実現に貢献していきたいと考えています。
2020年12月期はコロナ禍で落ち込みましたが、Web面談などテレワークでの業務体制が整備されたことや、企業の採用活動が活発化したことで、当期は売上高、利益ともに大幅な伸びを実現できました。エリア別では国内が大きく改善し、海外では欧州やシンガポール、マレーシアが回復した一方で、ベトナムやインドなどは依然低調な結果となりました。
コロナ禍前の2019年12月期と比較し、当期は求人成約率が同水準に回復、2020年比で1%上昇しました。前期は生産性が急落しましたが、当期は市場全体の需要拡大を背景に2019年以上の結果を挙げています。当社ではWeb面談の拡大によって複数のコンサルタントが立ち会えるようになり、求職者の方々への案件紹介の精度が更に向上した影響が大きいと見ています。
数値目標としては、年率15%の成長を掲げています。そのために目標値に合わせたコンサルタント数の増員で、3年後には当期より500名多い1,605名を目指します。その上であらゆるBPRを採用し、利益率の向上も目指します。この事業の成長の根幹であるコンサルタント増員と生産性維持を死守していきます。生産性維持のために、新たな研修制度「JAC Standard」を導入し、入社後1年間で継続して一定の生産性を達成するように教育します。一方、目標達成の阻害要因となるのがマーケットの低迷です。コロナ禍は乗りこえたものの、ロシア、ウクライナ状況による経済的影響は注視していく必要があります。
一般に人材紹介業は設備投資が不要で、利益を出し続ければ手元資金が残ります。かたや景気に左右される事業でもあり、内部留保は必要不可欠になります。当社では1年半は安定的な事業を維持できる体制を整えています。また、更なる拡大にはM&Aなどの大型投資も必要であり、一層の財務基盤の強化を目指して参ります。